兇天使 感想

 ここ2年間くらいのずっと読破目標だった『兇天使』、ようやく読了いたしました。


 オールタイムベスト級、どころか、私的オールタイムベストになりました。もうとにかくすんごいしとにかく面白い。小道具・大道具・構成・トリック・オマージュ・カタルシス・歴史・政治・耽美・愛憎・官能・SF・ミステリー・ファンタジーetc……どれを取っても素晴らしいとしか言えません。大森さんの隙無しの解説文にも書かれていましたが、ジャンルを軽々と超越していて俺の頭ではどこがどうと冷静に判断ができない。それでもSF読みにお勧めしたいのだけど、作品柄誰に勧めたらいいのかも分からない。ただ確信を持って言える事は、世が世なら確実に日本SF大賞星雲賞を受賞するどころか、各種ランキング上位や文芸賞をも獲得していただろうなあと、読み終えた今、そう感じずには居られません。
 SF読みになってから、野阿梓作品はいくつか読んだ事があって、でもそれはすべて氏が801に目覚めてからの作品ばかりでした。ただこれは初長編で、“それに”目覚める前に書かれた話であるが故にベッドシーンはわりかしあっさり目なんですが……(野阿作品を読んだことのない人は、何故ベッドシーンについて言及するのかと首を傾げるでしょうが、氏の作品としてここは重要なポイントなのです!*1)これほどの話を、ヴィジョンを、ってのはおかしい、信じられない……ハヤカワSFコンテスト第1席に入選しただけのことはある、ということなんでしょうけれども、まさかこれほどの書き手だとは思いもしませんでした*2。因みに自分が読んだのは『バベルの薫り』『ソドムの林檎』『少年サロメ』なのですが、これらよりは余程お勧めしやすい。お耽美がそこまで強烈じゃないということもありますが、ハムレットの換骨奪胎っぷりと超蒼穹な世界観、あとは矢張り、最終章のカタルシスは特筆せずに感想をよしとすることは出来ません。SFマガジン2009年10月号「神林長平谷甲州野阿梓デビュー30週年記念特集」*3や、野阿梓氏のホームページにも書かれていることですが、1作家1ジャンル、言いかえると野阿氏にしか書けない、野阿氏だからこそというお話。他のSFプロパーの作家たちが描こうとしていない領野で、いわば、その辺境にあって、SFという沃野の一画を耕し、未知の種子を撒き、誰も見たことのない花を咲かせ、未視の果実を収穫するというささやかな書き手の夢は、この頃からあったのだな、と。*4
 こんな作品、2度とお目にかかれないでしょう。超大傑作でした。


兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)


 読書メーターで呟いたことを纏めて置きます。まあ碌な事を言っていないんですが。
・のっけから面白すぎる。
・ちまちま読み進めてようやくP349。ああ、そういうことなのか? と。
・360あたりの描写は、野阿作品らしい淫靡さ。いいっすねえ。
・417真ん中あたり、おおっと思った。
・残るは最終章のみ。
・最終章、のっけから面白すぎる。
・うおおおおおおお>P581
・わりかしベッドシーンはあっさり目か。

*1:拳を握りつつ。

*2:まあ、俺が読み手としてそういうものも今まで感じ取ることが出来なかった、ということなんだけれども。

*3:http://homepage3.nifty.com/Noah/intv4.htm 前半部分終わり辺り。

*4:http://homepage3.nifty.com/Noah/kohaku.htm 最後辺りより。太字部分は引用させて頂きました。