異星人の郷 感想

 上下巻分冊になっていまして、上巻は2月23日に、下巻は2月26日に読了しました。


 いわゆる“未知との遭遇”な話。それらしい用語を使うと、ファーストコンタクトものです。
 大筋は二つあって、一つは中世ヨーロッパ人と宇宙人の交流を描く話。主にこちらが中心となっています。中世ヨーロッパと言えば、まず表れるであろう題材が黒死病ですが、本作でも重要なものとして描かれていました。
 もう一つは、統計歴史学者と宇宙物理学者の同棲カップルがそれぞれの研究に頭を悩ませていた、という話。統計歴史学者は中世ヨーロッパで記録から失われた地があることが分かり、その真相に探っていく。宇宙物理学者は新たな宇宙物理の真理を発見する。一見するとなんの関連性もないその二人の研究が、ある日突然……。
 読者は読み進めていくと、この二つの大筋に関連があることが分かり、最後の最後にはカチリとはまります。大体の構成はこんな感じです。


 話の展開や結末はありきたりですし、それらが至極淡々と描かれるのでえらく地味な印象を受けました。しかしそれこそが本作の最も良い点です。目新しいアイディアや派手なドラマを排したおかげで、中世人がもしも宇宙人と出会ったらどう接したかを当時の人々の日常感覚にごく近い視点で読めます。過去人が宇宙人に会うってのは、過去人が現代人に会うって感覚と似ているのじゃなかろうか。
 そして、統計歴史学と宇宙物理のコラボが、へええこういう形もありなんだなーということを思わせてくれました。ただし派手さや奇抜さはありません。


 また、あまりにも忠実かつ膨大に表現されている中世の描写はカルチャーショックを受けかねない程の出来です。なんちゃって中世みたいな感じでは決してありません。逆に言えば、中世に興味のない人やすごく派手なSFアイディアを読みたい人には向かない作品でしょう。
 俺のその人間(前者)ですが、少なくとも中世ヨーロッパのイメージは豊かになりましたね。


異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)


 余談ですが、俺が好きな歴史の年代は、日本だと明治維新以降、海外だと市民革命や産業革命以降です。中世はそんなに興味がありません。
 ただ合唱をやっていたので、中世はそんなにと言ってもルネサンス期に関しての知識がないことはないのです。まあ、専門に勉強している人からしてみれば“知ったか”もいいところですけれどもね。