新世界より 感想

 著者の前作より3年半ぶり、かつ、原稿用紙1800枚の書き下ろしの大作であるにもかかわらず、一気に読み通したくなるのは、さすが貴志祐介と言わざるを得ないと同時に、それだけ筆力が高いということの証左に他ならない。
 念動力という一見シンプルに思えるSF的ガジェットを用いつつ、圧倒的なスケールで描かれる異世界と、「人間とは、想像力とは」というある意味普遍的なテーマが見事に融合した作品。それでいて、これより前の貴志作品で描かれていた「人間の業の深さ、恐ろしさ」は全く失われておらず、より克明に描かれていた。ホラーやミステリー要素も健在であるが、この作品はそれに更に上乗せして、先述したようなSFや、また冒険譚である側面もあった。後に、第29回日本SF大賞受賞やこのSFが読みたい2008の国内篇1位、このSFが読みたいゼロ年代10位という栄冠を勝ち得たのもうなずける。
 まさしくジャンルの垣根を越えた、著者の最高傑作と言っても過言ではない。SFが好きな人、冒険譚が好きな人には是非お勧めしたい大傑作だ。


新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)