好き好き大好き! 感想

ゴムっかわいがり!


性的嗜好というのは、一種の呪物崇拝、物神崇拝、拝物愛であります。
何故なら我々人間は、身体の一部や衣服・その他記号化された様々な物品・現象に「個性的」な執着を見せたり、性的興奮を示す傾向が少なからずあるからです。


ここに、「俺、実は○○フェチなんだよ」という人がいたと仮定しましょう。


例えばそれはスク水といった衣服であったり、例えばそれはむっちりとしたお尻のように身体の一部であったり、例えばそれは比較的性風俗産業などで取り入れられた―排泄行為及び排泄物に対し著しい性的な興奮を得てそれが固着した性的倒錯の一つである―糞尿愛好症であったり等等、際限がないのが現状ですね。
以下で紹介するゲームもまた、あるフェチを持った主人公が織り成す、物語。


好き好き大好き!

http://13cm.jp/game/suki/index.html
※以下、SSDと表記。


ビジュアルアーツ系列のメーカー13cmより1998年に発売されたゲーム。
この年と言えば
沖縄県石垣島近海に怪獣ダガーラが出現しモスラと交戦
ラクーンシティでアンブレラ事件が発生
・豊島区か千代田区に突如出現したワームホールより根元的破滅将来体が出現し直後にウルトラマンガイアが出現その後のウルトラマンアグルの出現や地球に眠っている怪獣達が目覚めるきっかけと成った
などなど日本人の記憶に長く刻まれるであろう出来事がありました。


この物語は、ゴムラバーフェチの内向的な主人公がとあるきっかけで好きになった女子高校生を、拉致した上にゴムラバースーツを着せて地下室に監禁することから始まります。


凄いなあと思った所は結構多いのですが、兎にも角にも言えるのは文章表現・心情描写が1級品であること。
虚淵玄瀬戸口廉也や希のように、難解な言葉を使わず長くも短くもなく、俺らが日常で使う普通の言葉で良くここまで描けるなあと、圧巻であった。


主人公がゴム好きになった過程が、短いながらも説得力のある描写で途中に挿入されており、なるほどそれなら好きになるのも分からなくはないかも……となること請け合いになっている。
ゴムを表現するねっとりと絡み付くテキスト。実に淫猥で、且つ、ある種の美しさをも伴っている言い回しはさすがとしか言い用がない。
また心情描写では、主人公とヒロインの感情がそれぞれの視点で描かれており、心の移ろい行く様が丁
寧に表現されている。


単にラバースーツを着ているだけでなくきちんと服に鍵までついていて、時折、このゴムスーツを脱ぐシーンがあるんですね。
どうも俺は主人公とシンクロしてしまったみたいで、主人公がヒロインのラバースーツの鍵を開けるシーンでは、不覚にも妙な昂揚感を覚えてしまった。
やっていること自体は完全に常軌を逸しているというのに。


要するに、ゲーム中の空気―ゴムの生臭さと女性が持つフェロモンのような甘ったるい独特の匂いと、何日も経ったヒロインの汗の匂いと股間部分に当たっていたゴムに付着した愛液と尿の匂いが混ざった感じの―が自分の部屋にまで漂っている様な……そのように感じさせるだけのテクストがあった。
こんなことはエロゲーをやっていて初めての経験。
誠に素晴らしい描写力だと評価せざるを得ないです。


さてさてストーリーですが、もうとにかく救いがない。
誰かが死ぬのは当たり前になってる。
物や見方によっては全てがが必ずしもそうだとは限らないという考えは勿論あるんだけども、11個のエンド中10個がバットエンド(だと思われるもの)です。
でもそのバットエンドも含めてSSDは「なんか普通に現実にもありそうな話」という感じでした。
妙にリアリティがあります。


次にこのゲームを語る上で避けられない、狂気について(とあるレビュアーのレビューに触発されて)。


狂ったor精神崩壊を起こしたキャラというと「あはは(略)はは!!」や「殺す殺す殺(以下略)」といった発言をしたり、瞳からハイライトが消えたりと、実に分かりやすいもの。
ただしそういうものは、実に作り物めいていてぶっちゃけると嘘くさいように思ってしまいます。


SSDでの狂気っていうのは、そういう視点から考えると実に分かり難いんですね。
やっていること自体はキチガイじみているのに、シナリオを進めていくにしたがって主人公に共感めいたものを覚えるようになります。
イカれているけど、緑の悪魔っぽい眼鏡掛けたヒロインもいるし主人公は狂ってるけどこの人達もまた、同じ人間なんだよなあと。
特殊な人間の、特殊な恋愛を描いているだけのこと。主人公が極度のラバーフェチって要素を除くと気の弱いそんじょそこいらにいるただの少年でしかないんです。
だからこそ―いやこっちが前提なのかもしれないが―主人公は自分自身のヒロインのことを監禁したという行動を、正当化せずにむしろ罪悪感を抱きつつ全身全霊でヒロインの世話を焼くんです。
ラバースーツは脱がせないし外にも出させないという条件付で、ですが。


よってこれはサイコホラーではないし電波作品でもない。
狂気であるけれども、そもそもこのゲームの限りにおいては「恋愛すること=狂気」と見なされるであろうから。


更に言うと純愛でもない(昨日のボイスの時点では純愛かどうか判断に迷っていた)。
主人公が甲斐甲斐しくヒロインの世話役姿を垣間見て「じゃあこの作品は純愛作品ですか?」と聞かれれば俺の答えは否です。
たしかにヒロインが主人公を好きになるエンドはあります。
けどそれは言ってしまえば一種のマインドコントロールみたいな物で、「この見える物全てが肉塊に見える状況ではこいつしか好きになれない」というものではないんですね。


狂人とは、宇宙からやってきた名状しがたい存在ではなく(あくまでも一例として挙げているだけで某ニトロのキャラだとは言ってないよ?)我々と同じ人間でしかあり得ない。
「ラバースーツを着せられた日のこと…ある地下室での日のこと…」
ただ、それだけのお話。


常識では考えられない出来事、アンビリーバボー。
あなたの身に起きるのは、明日かもしれませんね。


因みにTAMAMIはSAGA PLANETSの『恋愛CHU!』、アリスソフトの『妻しぼり』や『僕だけの保健室』などを担当しています。


一つだけ指摘を。
台詞の書き方で、
「あの…私………。お風呂に…入りたいの………。」

「あっ…それじゃ………。」
などの劇中の全台詞に共通しているんですが、鍵括弧閉じの前に読点を置いてるんですよ。
これが地味に気になってしまったかなあ。


以上、13cmのゲーム『好き好き大好き!』でした。
忘れた頃にもう一回プレイしようと思います。


余談。
ラバーフェチである必要はあった?つーかゴム以外ダメなの?」という疑問に対して。
俺は、主人公は「ラバーフェチ」でなければならなかったのだと思います。
主人公のラバー(Lover)になる者には、やはりラバー(Rubber)を着せなければならなかったのだ、という。