マインド・イーター[完全版] 感想

 読了しました。まず、今年読んだ新刊で一番面白かった作品と言っておきます。


 以前、飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』を読んで好きになりまして、それから飛さんのTwitterをフォローしたり、ブログ記事を昔の分も含めて殆んど読んだりと、飛浩隆ファンをやっていました。そしてそのうちに、飛さんは随分と『マインド・イーター』という作品を推しているなあ、という事が分かっていったんです。俺はSFマガジンを定期的に読むということをあまりしていないので、Twitterやブログでしか飛さんの好きな作品を知ることが出来なかったんですね。たとえばこういう記事を読んで。

My Favorite SF - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録

■ - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録


 これらの記事を読んだ時、既にAmazonマーケットプレイスで1円商品が悉く消え去ってしまっていて、かつ高めの値段だったので中々手が出せない状態でした。
 また、読書メーターにおける旧版『マインド・イーター』の感想なんかでも、

マインド・イーター (ハヤカワ文庫 JA 194) LJ_MAKKIさんの感想 - 読書メーター

 こんな感想があり、益々気になっていたんですけれども、矢張り手に入れ難いという状況が続いていました。
 そして今回の復刊。確か飛さんのTwitterで初めて知ったと記憶していますが、まるで、昔旧版を読んで楽しめた人間が久々の復刊に歓喜するような感じで嬉しかったです。


 で、具体的な作品の感想なんですが、こちらは連作SFになっていますのでそれを踏まえて、各々の短編について一言程度で。ネタバレになりそうな部分は反転してあります。


  • 「野生の夢」

 冒頭の描写から素晴らしい。宇宙が誕生し、そこで名状しがたい何かが生まれ――という描写が破格。

  • 「サック・フル・オブ・ドリームス」(書籍初収録)

 「野生の夢」から、あれ、これってマインド・イーターなの……――と思ったらそういうことかと。
 ここで初めて、この作品は連作SFではあるがなにかが違うということに気付き始めました。

  • 「夢の浅瀬」(書籍初収録)

 二度衝撃を受けた。一度目は、最後から13行目。二度目は、皆と同じ最後から4行目。単にそれに気付かない俺が鈍いだけです(苦笑)

  • 「おまえのしるし」

 殊に、物語というものに触れる全ての人間が読む/読まれるべき名言があります。俺はこの言葉を一生忘れない。

  • 「緑の記憶」

 鉱物、音楽と来て次は植物……ますますマインド・イーターというものが分からなくなっていきました(褒めています)。

  • 「憎悪の谷」

 切ない、とにかく切ない。基本的にSFとは切ないものだと思っているんだけれども、いやはやこれは。
 そしてこういう切り口もするのかと。

  • 「リトル・ジニー」

 ……ここまで短編を“積もらせて”おいてこんな話を持ってくるのか。
 一体マインド・イーターとは何なのだ!? と叫ばずにはいられなかったですね。

  • 「迷宮」

 うわーん、面白いよー。
 もっと、もっとマインド・イーターが読みたいよ! と叫ばずにはいられなかったですね。



 ざっとこんな感じです。
 詳しい作品解説は俺なんかがするまでもなく、飛さんが本の後ろで書かれています。圧倒的な解説でした。
 というか、恥ずかしながら告白すると、俺は作者である水見稜が物語にこめた情報の20パーセントどころか10パーセントも分かっていません。が、それでいいんだと思っています。*1


 解説を読んで。
 恥ずかしながら小松左京を1冊も読んだことがない20代前半の初心者SF読みなわけなんですが、あとがき、解説にあるコンセプトをこういう文芸でやってしまえちゃうんだなと思いました。そして、数少ない読書体験から作られていたSF観は見事に変わりました*2
 強く思ったこととしては、やはり「この作品はただひたすらに清新であり、残酷であり、美しくある」を引用すべきでしょう。


 まあ、実際読んでいる途中は難しいことはあまり考えずに(といったら失礼でしょうか)、娯楽SFとしてとことん普通に楽しめた1冊。
 胸を張って、『マインド・イーター』は間違いなく傑作です、と言えます。


マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫) (創元SF文庫)

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