沈黙のフライバイ 感想

 この作品のどこが、なにがすごいのか。


 まずこの作品は短編集だ。どの話も主に宇宙に対する眼差しが熱く、しかし極めて理性的に向けている登場人物たちが活躍する。話としては、地球外生物、惑星間飛行、恒星間探査、火星植民、宇宙飛行などなどなのだが……ある意味これらは絵空事なのかもしれない。たといいい意味で捉えたとしても、遠い未来の話だろ? と嘲笑されるのが関の山だろうと思う。
 しかし、それを絵空事と思わせずに、極めてリアルだと感じさせられるような、もしかしたら自分が生きている時に実現出来るのではないか? と思わさせられるような、この小説はそのような様相が克明に書かれているのだ。
 このような感情を読者に想起させることを可能にしている要素はいくつかあるだろうけど、まず一つ目に現実で実際にある理論を元に話が書かれているという点(沈黙のフライバイ、轍の先にあるもの、片道切符)。二つ目に、「手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に」を信念に持っているかのような登場人物たち(どの作品にも健在)。三つ目に、野尻抱介の、絵空事をリアルにあり得そうだと読者に感じさせる筆力の高さ(解説文にもあるので省略)。


 これらの要素がうまく噛み合い、この作品は良質のハードSFと相成っている。
 いいものを読ませてもらった。

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)