ハーモニー 感想
まぎれもなくSF“小説”だと思うのだけど、これほどまでに迸る現実感を描写している、伊藤計劃の筆力に脱帽した。
たしかにこれはノンフィクションだが、内容は我々が生きているこの世の中から乖離したものではないことに驚いたのだ。いかに著者が現実をよりよく、時には理屈を以って見据え、見通しているかがよく分かる。ある意味、社会派SF、と捉えられなくもない。しかしミリタリーSFだとは思わなかった。ポイントはそこではなくて、あくまで「社会というものを通じて見た個人」に焦点をあわせた、極めてミクロな話だと思う。
虐殺器官では、その圧倒的な先見性に心を奪われたが、ハーモニーでは「いま、ここに在るもの」をいかに認識するかに、心の底から感動した。
これで伊藤計劃は終わりだなんて……本当に、本当に夭折なされたのが惜しい作家だと思う。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 文庫
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ちなみに、個人的に伊藤計劃は社会派SFを書く作家だと思っている。
参考までに。
asahi.com(朝日新聞社):現実世界・闘病をSFに昇華 伊藤計劃さん、没後に人気 - 文化トピックス - 文化